16年度〜18年度 実施報告
取組の概要
千葉商科大学 現代GP「地域課題の調査・分析に基づく政策実践教育」として、「地球がキャンパス」を合い言葉に、市川市や江戸川区など近隣地域において、実社会の多様な問題を発見・解決するための実践的教育に取組んだ。具体的には、
- (i) 地域の課題を調査・分析する手法の修得と実践
- (ii) 課題解決の政策実践モデルの策定と実施
- (iii)「CUC方式」による地域活性化の推進
の3つの取組を段階的に融合し実施した。この「CUC方式」として、地域課題の調査・分析とそれに基づく政策立案・実践・評価を大学のカリキュラムと有機的に結びつけた。地域で学生が主役として活動するような実践的教育を推進しつつ、地域活性化政策を実現する、21世紀型の教育活動のモデルを打ち立てた。
実施の経緯・過程
本学は、本取組の採択以前に、河川再生などをテーマとしたまちづくりプロジェクト、駅前放置自転車問題解決プロジェクト、地元商店街活性化プロジェクトなど、地域との共同研究・社会実践において、多くの蓄積を持っていた。また、ゼミや学生プロジェクトなどを舞台として、意欲の高い学生が主体となる形で、学生が地域社会をフィールドとして学んだ成功事例が共有されるようになっていた。このような経験から、新しい教育・実習のスタイルが見出された。すなわち、地域社会をフィールドとして学ぶ学生が、問題発見をし問題解決に繋げることで、「実学」としての学びを深め、またその成果を地域社会に還元していくというものである。さらには、こうした取組を、ゼミなどのように高学年の学生や一部の学生だけが関わる形とするのではなく、より一般的な授業において、低学年の学生を含む一般的な学生たちに広く関わらせるための工夫が求められた。
そこで、本採択事業では、「CUC方式」と名づける新しい教育・実習のスタイルを開発した。この「CUC方式」は、本学の教育カリキュラムの特徴である「3言語」、すなわち、「自然言語」「メディア言語」「会計データ言語」を地域社会での学びを実践するために必要なリテラシとして位置づけ、その上で、実習的な内容の授業を通じて、地域課題へ取り組む活動に学生たちを参加させる展開を図るものとした。この一連の核となる科目として、地域社会から5つの課題を抽出し、これらに対応づける形で5つの「特別講義」を新規に開設した。この「特別講義」における成果は、ファカルティ・デベロップメントと、その後につづく各種のカリキュラム改訂で、学内の他の講義・教育体制に波及させていくことを企図した。
この5つの「特別講義」のテーマには、学生にとって身近で、市川地域における重要な政策課題として、「地域通貨論」「地域社会のリスクマネジメント」「コミュニテイ・ビジネス実践」「インターネット自動車と地域社会」「地域の文化資産の保存と活用〜文化資産を使った街づくり」を設定した。それぞれの講義では、「地域の課題を調査・分析する手法の修得と実践」として、担当教員による講義と、ゲスト講師による講演などを通じて、関連する知識や技術の習得を行わせることを基礎として学ばせた。次に、「課題解決の政策実践モデルの策定と実施」として、学外に出て政策課題の現場でフィールドワークによる実習を行わせることを中盤の柱とし、さまざまな課題解決の中に一定のモデルがあることを意識させる形とした。学期末には、学生による学習成果発表を行わせ、次年度以降に、この「CUC方式」による教育プログラムを履修する者のために共有可能な成果として、報告書作成・ビデオアーカイブ化・公開をするといった流れで実施するものとした。 本取組の実施体制としては、学長・学部長の指揮のもとで、若手教員を中心とする運営組織がつくられた。このメンバーは、カリキュラム改訂などを担当する学内タスクフォースを兼務し、本学の中長期的な教育方針の策定に、本取組の成果をフィードバックする道筋が作られた。 以下、年度ごとの活動概要を示す。
16年度
現代GPの実施体制構築、17年度特別講義の開設準備、今後のカリキュラム改訂に向けた準備的業務を行った。学内で実施される講義内容を映像として撮影し、その講義資料と合わせてインターネットでVideo on Demand形式で公開する体制を整えた。3月には地域連携イベントの一環として、「地域に学ぶ・地域と学ぶ 大学の未来像を求めて」というテーマを掲げて、現代GP採択を受けた公開シンポジウムを実施した。
17年度
春学期 特別講義
- 「地域通貨論」(13回)を開講した。このうち、ゲストレクチャーシリーズとして、地域通貨関連の実践者・企業関係者を招き、市民公開講座を計4回実施した。コミュニティ金融・マーケティングという文脈での新しい地域通貨像を提示した。
- 「地域社会のリスクマネジメント」(13回)を開講した。このうち、地域防災の研究者をゲスト講師として市民公開講座を1回実施した。大規模震災対策として、仮設住宅ニーズ調査をテーマに地域社会に質問紙調査を実施し、その集計結果から、市川市に対して政策提言を行った。その内容を報告するシンポジウムを9月に実施した。
- 「コミュニテイ・ビジネス実践」(13回)を開講した。近隣商店街にサテライトオフィスを開設し、コミュニティ・ビジネスの活動を学生が担うスタイルでの教育プログラムを開発した。
秋学期 特別講義
- 「インターネット自動車と地域社会」(13回)を開講した。各種センサーを搭載した自動車をインターネットに接続し、収集された地域データを用いて、地域情報サービスを行うための要素技術を学ぶ教育プログラムを構築し、地域社会での実測作業などを行った。
- 「コミュニテイ・ビジネス実践」(13回)を開講した。こ春学期の内容を発展させた形で、学生たちの学び合いを進めることに注意して実施した。
- 「地域の文化資産の保存と活用〜文化資産を使った街づくり」(13回)を開講した。地域社会の歴史・文化的な資産を、ネットワーク上で記述しておき、鑑賞者が携帯通信端末などを手にして街を巡り、それらの情報構造に作りこまれた関係を辿っていく「たどるミュージアム」を、QRコードとWeb技術を用いて開発した。9月に、地域通貨論のビデオ教材を用いた学習プログラムへの導入的教材開発のため、長野県の軽井沢高等学校への出張し、模擬授業を実施した。3月に、現代GPでの5つの「特別講義」を中心とする取り組みを報告する報告会を、地域住民が参加する公開シンポジウムの形で実施した。7年度の活動を取りまとめた「報告書」を執筆・刊行した。
18年度
春学期 特別講義
- 「地域通貨論」(13回)を開講した。このうちゲストレクチャーとして、2度の市民公開講座を実施した。
- 「コミュニテイ・ビジネス実践」(13回)を開講した。17年度の内容から引き続き教育プログラムの充実化を行った。特に、活動の継続を考えに入れ、先輩が後輩を育てるような学生間の組織づくりに注力した。
秋学期 特別講義
- 域社会のリスクマネジメント」(13回)を開講した。大学を中心とする地域防災をテーマに、大学内外の危険箇所の点検などを中心とした実習と、横浜地域と市川地域の市民に対するWebアンケート結果の分析を行わせた。
- コミュニテイ・ビジネス実践」(13回)を開講した。前学期までの成果を引き継ぐ形で、コミュニティ・ビジネス実践の教育プログラムの充実化を行いつつ、その実践をした。特に、チラシ配布による集客効果を学生が検証するという形で、地域に根ざした問題を学生が自ら調査・分析するという内容などを実施した。
- 「インターネット自動車と地域社会」(13回)を開講した。地域社会での実践を中心として実施した。また、本事業を通じて開発した学習プログラムを、より充実した形で継続的に実施させていくために、過去3年に渡って収集した資料を教材データとして編成した。
- 「地域文化資産の保存と活用」(13回)を開講した。たどるミュージアムのコンテンツの充実化を進めた。また、市川市ないし近郊の浦安市や東京都内など学生に身近な地域の古写真を用いて、学生が現地調査を行い、その成果を報告させながら、当該地域の歴史性について考察し、地域文化の情報発信や文化資産の活用をいかにして行っていくべきかについて、学生が研究発表を行った。
- 地域課題に即応する専門技術としてニーズの高い、情報関連教育についての充実を図った。具体的には、1年生向けの情報処理基礎授業の教科書を、単なるPC演習ではなく、アカデミック・リテラシーや、情報ツールの実学的利用方法を学ばせるためのものとして、執筆した。このプロジェクトの成果として、19年3月にその第一版を完成させた。
- 18年度の活動を取りまとめた「報告書」を執筆・刊行した。また、3年間の取組を受けての最終報告会を実施した。地域市民、大学や地域の教育関係者、官公庁、企業、NPO関係者など多様な構成による36名の参加を受けた。従来は担当教員らが個別に自らの研究や社会貢献活動として実施してきた社会実践の内容を、現代GPの枠の中で本学が、地域貢献活動を通じて、内外の関係者間の人的交流を深め、地域活性化 への貢献に取り組む大学として機能強化を図っている実例として報告した。また、会当日には、本取組の外部評価委員として、地元企業関係者、自治体関係者として市川市総務部長、他GP採択大学責任者の3名を招き、コメントをいただいた。
目的に対する成果、人材養成面での達成度
- (i)社会人基礎力としての問題発見・解決手法と、それを通じたコミュニケーション能力の育成プログラムについて、本取組を通じての確立を果たすことができた。
- (ii)地域社会と連携する形で、学生の学習意欲を喚起し、さらには地域課題に取り組む研究者を育成するという形での成果を得た。本取組の特別講義において意欲的に学んだ学生らが、そこでの履修内容を発展させる形で、東京工業大学、京都大学、慶應義塾大学、早稲田大学などへの大学院進学を果たした。
- (iii)3ヵ年の(i)(ii)の成果を受けて「CUC方式」を実現するものとして、教育カリキュラムの体系化を行い、政策情報学部においてカリキュラム再編を果たした。
自大学の教育改革への影響、他大学等への波及効果、地域社会等への波及効果
本学への教育改革の影響として、政策情報学部では、本取組によって得られた知見をもとに、地域貢献をする能力と意思とを持った学生を学部を挙げて育てるためのカリキュラム改定を行った。3言語教育における実習・実践重視の教育プログラムの特徴を、「みつける」「まとめる」「つたえる」を共通キーワードとして教職員・学生らが意識化できる形にし、対応する教材などの改訂・整備を行った。このうち、本事業により作成した情報基礎科目の教科書については、19年度より実際の授業での利用を開始した。また、政策経営、環境、IT社会基盤、文化・表現メディアの4つのコースを2年次より選択させ、それぞれのコースにおいて基礎・応用科目を設けることで、分野ごとの専門性についての体系的な学びを実現した。併せて、コースを越えた横断的な履修を推奨し、問題解決のために異分野の知識を統合し人的ネットワークを活用して取り組むスタイルを身に付けられるようにした。
本取組についての広報活動として、OB・関係者向け機関紙である「治道家」特集、大学Webホームページで随時行うとともに、受験生向け大学パンフレットなどでアピールした。各年度末には地域に公開するシンポジウムとして成果報告会を実施し、本取組の内容について広く公表した。併せて、取り組みを紹介・報告するパンフレットや報告書を作成し、地域のNPO団体、自治体、教育機関などに郵送した。また、本事業による特別講義の講演や報告会の内容をVideo on Demandの形で編纂・公開した。 他大学への波及効果としては、千葉工業大学との間で、相互に現代GPの外部評価委員を実施する取り決めを行い、担当者間での交流・日常的な意見交換、互いのGP関係イベントについては相互に協力して広報活動を行うなどの連携活動を開始した。18年12月26日の千葉工業大学の現代GPシンポジウム内では、本学瀧上信光教授がゲストパネラーとして、当取組の活動内容についての事例報告を行った。
学生等の評価
18年度の授業調査の結果では、「授業内容について興味が深まった」と回答した学生は、授業科目全体での平均が74%であったのに対し、本補助事業による「特別講義」を履修した学生は90%に及んだ。また、「この授業への満足度は学期中に受講した授業のbest3に入る」と回答した学生は、平均が57%であったのに対して、「特別講義」を履修した学生は85%に及んだ。他のほぼ全ての項目においても同様に好評価であった。 特別講義の履修者アンケートの自由回答では、次のようなコメントを得た。
- 「今衰退している地域の現状に目を向け,どうしたらもっと生き生きと暮らしていけるのかを考えました。地域通貨は地域の活性化に役立たせることができます。元気のない社会を活性化させたい!そんなときは学んだ知識を有効活用していきたいです。」(「地域通貨論」履修者、政策情報学部3年)
- 「受講して特に良かった点は,地域の方々とコミュニケーションがとれるようになった・友達が増えたことですね。コミュニケーション力に自信がつきました。」(「コミュニティ・ビジネス実践」履修者、政策情報学部3年)
- 「単に古写真の資料性とその可能性だけでなく,一方で資料としての懐疑的な側面も含め論じられた講義だった。その客観的な内容は自らを含めた学生に,「公共政策」について考える余地を与える建設的なものだった。」(「地域文化資産の保存と活用」履修者、政策情報学科4年)
- 「地域防災について,学生(大学),住民,自治体が協働を進める為にはどうしたらいいか?という問題には大変関心を持ちました。今後も,機会と時間があれば地域防災関係の活動等に参加していきたいと思います。」(「地域防災課題の調査分析(地域社会のリスクマネジメント)」履修者、政策情報学科4年)
- 「地域交通の課題を解決するために,普段利用している道路に,どんなシステムが導入されているのか,道路はどんな状況なのかなど,知っているようで知らない事が多くあることを実感しました。」(「インターネット自動車を用いた地域課題の調査・分析」履修者、政策情報学部3年)
学外からの評価
「CUC方式」に基づく多様なプロジェクトと、そうしたプロジェクトによる学生らの活動モデルは、地域市民、企業、近隣地域に位置する他大学、行政などからの幅広い協力を受けることで実施できた。また、本補助事業を通じて、大学内における地域連携を通じた教育活動の重要性の認識と人的ネットワークを広げることができた。
そうした波及効果の具体例として、特別講義「コミュニティ・ビジネス実践」では、サテライトオフィス半径1キロでの宅配ビジネスの輪を広げることを通じて、本学近隣の地域コミュニティに、若者と高齢者とのふれあいの場が必要であることを認識させた。特別講義「地域防災課題の調査分析(地域社会のリスクマネジメント)」では、この講義を通じて開発・実践された、地域の地震災害リスクの評価とその減災に向けた取り組み手法を、学生が実質的な業務の担い手として実施することを通じて、市川市政に貢献できる可能性が開かれた。また本学での地域連携による調査実績をもとに、慶應義塾大学や東京工業大学の研究者を、本講義担当者らが支援する形で、小田原市・横浜市など他地域での地震災害リスクに関する社会調査の取組が実現した。特別講義「地域文化資産の保存と活用」では、市川市教育委員会との協働により、19年3月に実施された「行徳回遊展」内で「たどるミュージアム」の拡張版を公開し、学生らがナビゲータとなり携帯情報端末を活用する形で、市民がまち歩きをしながら地域の歴史・文化的史跡を巡るという企画を成功させた。「たどるミュージアム」が、本学周辺の市民が歴史・文化的なキャピタルの高い市川地域への理解と愛着を深めることに役立つものであることを示した。
報道事例としては、18年7月:大学受験生保護者向け雑誌「YOMIURI SPECIAL37 息子・娘を成長させる大学」(読売新聞社)の巻頭カラーで取り上げられ、「社会人基礎力」を学ぶための優れた教育プログラムの実現であるとして、高く評価された。
取組支援期間終了後の展開
本取組において実施された教育活動を継続するために、金銭的な支援が必要な部分に充てるための、全学的予算枠を公式に新設した。この予算を利用して、「コミュニティ・ビジネス実践」の特別講義については、支援期間終了後にも継続的に開講する形とした。その他の特別講義については、予算手当ての不要な形となるよう、一般の講義や研究活動に再編・統合することで継続するものとした。
今後については、学生と地域からの期待に応えていくように、大学が必要に応じて柔軟に変化し続けることが重要であると考えている。地域をフィールドとした実践的な教育プログラムの整備と合わせて、学内教職員の組織体制の強化・大学構成員ひとりひとりの意識改革を、よりいっそう進めていくものとしたい。
